【廿日市女子高生殺人事件】
廿日市女子高生殺人事件は、2004年(平成16年)に広島県廿日市市で発生した殺人事件である。
2004年10月5日、広島県廿日市市上平良(ひろしまけん はつかいちし かみへら)に住んでいた高校2年の北口聡美(きたぐち さとみ)さん(当時17歳)が、自宅で男に刃物で刺され死亡した。
聡美さんはこの日、試験のため普段より早く帰宅し、夕方からのアルバイトに備え、離れにある自分の部屋で仮眠を取っていた。
その後、離れから聡美さんの悲鳴と階段を駆け下りる音を聞いた祖母と妹は、離れに駆け付け、離れの扉を開けた。
すると、そこには血まみれで倒れている聡美さんと刃物を持った男が立っていた。
祖母と妹に気付いた男は祖母を刺し、その後、逃走した。
妹は近くにある園芸店に逃げ込み、無事だった。
聡美さんと祖母は共に10ヶ所以上刺されており、その後、病院に搬送され、祖母は一命をとりとめたが、聡美さんは出血多量で間もなく死亡が確認された。
聡美さんには殴られたり乱暴された形跡はなく、部屋を荒らされた形跡もなく、財布や携帯電話も残されていた事から、警察は土地勘と間取りを知る、聡美さんに恨みを持った人物による犯行と見ている。
「事件当日の経過」
・午後1時過ぎ
聡美さんは試験のため、普段より3時間ほど早く下校し、午後1時過ぎに帰宅した。
この時、両親は仕事に出ており、自宅にいたのは祖母と小学生の妹だけだった。
・午後2時過ぎ
聡美さんは夕方からのアルバイトに備え、一旦離れにある自分の部屋に仮眠を取りに向かった。
自宅は母屋と離れに分かれており、離れの1階は物置で、2階が聡美さんの部屋になっていた。
・午後3時過ぎ
離れから聡美さんの悲鳴と階段を駆け下りる音を聞いた祖母と妹は、離れに駆け付けた。
そして、離れの扉を開けると、そこには血だらけで倒れている聡美さんと刃物を持った男が立っていた。
祖母と妹に気付いた男は、刃物を振りかざして襲い掛かり、祖母を10ヶ所以上刺して逃走した。
その後、祖母は深い傷を負いながらも母屋に戻り、警察に通報したが、その直後、意識を失った。
妹は、自宅から約50m離れたところにある園芸店に裸足で飛び込み、「お姉ちゃんが刺された」と何度も繰り返したという。
聡美さんと祖母は、共に10ヶ所以上刺されていた。
聡美さんと祖母は病院に搬送され、祖母は何とか一命をとりとめたが、聡美さんは出血多量で間もなく死亡が確認された。
「犯人の手掛かり」
犯人が道路がある右に逃走したのか、畑がある左に逃走したのかは分かっておらず、目撃情報も1件もなかった。
しかし、犯人は現場に様々な手掛かりを残していた。
・手掛かり1:靴跡

靴跡から犯人が履いていた靴が特定された。
ダンロップ製のスニーカーで、サイズは26~27cm。
・手掛かり2:指紋
現場から犯人の指紋が採取された。
・手掛かり3:犯人の顔

祖母と妹は、犯人の顔を目撃していた。
上の画像は、2人の証言をもとに作製された犯人の似顔絵。
・手掛かり4:犯人の特徴
祖母と妹の証言による犯人の特徴は、年齢20歳くらい、身長165cmくらい、小柄でガッチリ型、細く鋭い眼、頬にニキビ跡、ツンツンと立った髪の毛。
多くの証拠があったため、当初、事件は早期解決かと思われた。
しかし、なかなか犯人の逮捕には至らなかった。
懸賞金300万円を懸けても有力な情報は得られず、事件は風化しつつあった。
警察は、約4万人の関係者に事情を聴いたが、聡美さんに恨みを持つ人物なども見つからなかった。
「プロファイリングで犯人に迫る」
事件から約11年後に、「最強FBI緊急捜査SP」という番組で、元FBI行動分析課・特別捜査官のメアリー・オトゥール博士のチームによるプロファイリングが行われた。
プロファイリングとは、犯罪捜査において犯罪の性質や特徴から行動科学的に分析し、犯人の特徴を推論する事。
オトゥール博士は、この事件を解決するために自分のBAU(行動分析室)を作り、そこに行動科学や鑑識の専門家を集めた。
<犯罪学的アプローチで捜査>
元FBI行動分析室・特別捜査官のトーマス・ニア氏による現場の捜査が行われた。
・聡美さん宅前の駐車場
聡美さん宅前には、向かいのアパートの駐車場があるが、事件発生と同時刻の午後3時頃には、車が1台も停まっていない状態になる事が分かった。
ニア氏は、犯人がこの事を事前に知っていた可能性があり、以前から聡美さんを監視していたのではないかと推測した。
・軒下の洗濯物
事件当日、離れの前の軒下には洗濯物が干されており、犯人の姿を隠す死角になっていた。
・近所へ聞き込み
近所に聞き込みを行ったところ、事件当日の事件発生時刻に、聡美さん宅から大きな声や音は聞こえなかった事が分かった。
ニア氏によると、これは犯人が計画的に聡美さんに近付いた証拠で、聡美さん宅に侵入するまで確定的な殺意を持っていなかった可能性があるという。
・日本警察の捜査手法を調査
ニア氏は、プロファイリングをより正確なものにするため、日本警察の捜査手法を調べた。
協力してくれたのは、元滋賀県警・鑑識課捜査官の坂本啓一氏。
坂本氏は、地元広島のテレビ局の依頼で、聡美さんの事件を何度も調査している人物だ。
坂本氏によると、事件当時、不審者情報があり、その不審者がバイクを隠しているところを目撃した人がいるという。
不審者が目撃された場所は現場から約150m離れた地点で、小さいバイクを隠すように停めていたという。
<被害者学からアプローチし犯人像を絞り込む>
被害者学は、なぜ被害に遭ったのかという事に注目し、被害者の性格や生活環境から事件を読み解くもの。
ニア氏は、被害者学の観点からアプローチし、犯人像を絞り込むために、聡美さんの父親に聞き込みを行った。
Q:聡美さんの部屋に誰かが泊まりに来たり、遊びに来たのを知っていた?
A:頻繁には来ていないが、何回かは遊びに来ていて、親しい友達はたぶん1、2回泊まりに来ていた。
Q:彼氏はいた?
A:私の知る限りではいない。逆に高校2年生だから、そろそろ男の子作れよと言った。
ニア氏は、両親が聡美さんの全てを知らないと睨み、友人に聞き込みを行う事にした。
事情聴取に応じてくれたのは、聡美さんの高校時代の親友Aさん。
Q:聡美さんと仲が良かった友人は何人くらいいた?
A:高校1年と2年の時、クラスが同じで、常に私といる事が多かったので、私の知らない聡美は塾に通っている聡美だけだった。
Q:彼氏はいた?
A:いなかった。
Q:聡美さんの秘密の面は?
A:秘密の面というか、本人が秘密にしていたかどうかは分からないが、聡美には当時、好きな人がいて、付き合ってはいなかったが、それに近いところはあって、メール交換して「下着姿の写真を送ってくれ」とか言われていた。
聡美が好きだったので応援はしていたけど、今考えると止めれば良かったと思う。
それが一番気になるところだった。
Q:2人はどこで会っていた?
A:聡美の部屋だったように思う。
当時、警察は聡美さんと付き合っていたと思われる、この男性について捜査したが、事件への関与は認められなかった。
<導き出した犯人像>
・聡美さんが離れに住んでいた事を知っていた人物
・事件当日、聡美さんがいつもより早く帰宅する事を知っていた人物
・何らかの理由で聡美さんに殺意を抱いていた人物
<BAUが作製した新たな犯人像>
BAUは、犯人は当時20歳くらいではなく同級生だと指摘している。
また、BAUが作製した新たな犯人像が下の画像。

「容疑者を逮捕」

広島県警は2018年4月13日、別の暴行事件で任意捜査対象になっていた山口県宇部市の会社員・鹿嶋学容疑者(事件当時21歳)のDNAや指紋が、現場で採取されたものと一致した事から、鹿嶋容疑者を殺人容疑で逮捕した。
鹿嶋容疑者は、「ワイセツ目的で聡美さん宅に侵入した」という趣旨の供述をしており、廿日市市に居住歴はないが、「以前務めていた会社を解雇され、自棄自暴になった。通りすがりに犯行に及んだ。」などと供述している。
鹿嶋容疑者は事件当日、山口県宇部市から広島県廿日市市の犯行現場までバイクで向かい、信号待ちをしている時に、聡美さんが離れに入るのを偶然目撃し、侵入したという。
そして、侵入後、持っていた折り畳みナイフで脅迫したが、乱暴する前に逃げられたため、胸や腹を多数回刺して殺害したという。
鹿嶋容疑者は、十数年前から宇部市内にある土木建築会社で働いており、社長は「無断欠勤などはなく、仕事態度は真面目だった。」と評価しており、口数は少なくて大人しかったという。
鹿嶋容疑者の父親は、「気は弱いし、引っ込み思案の性格」と述べている。
しかし、2018年4月上旬に、イラついたという理由で後ろを向いていた部下の左足上部大腿部を走り寄って蹴り上げた事で警察に通報された。
その際に、山口県警察本部に指紋を採取され、本事件遺留物の指紋と照合したところ、指紋が一致したため、逮捕となった。
同年5月3日には、聡美さんの祖母に対する殺人未遂罪で再逮捕され、5月24日に殺人罪と殺人未遂罪で起訴された。
「裁判」
2020年3月3日に、鹿嶋学被告の裁判員裁判の初公判が予定されている。
広島地裁によると、3月3~5日と10日に審理があり、18日に判決が言い渡される予定。
「北口聡美さん」

・名前:北口聡美(きたぐち さとみ)さん
・当時の年齢:17歳(高校2年生)
・住所:広島県廿日市市上平良