【化粧品販売員強盗殺人・死体遺棄事件】
化粧品販売員強盗殺人・死体遺棄事件は、2015年(平成27年)に群馬県館林市で発生した事件である。
2015年4月15日午前10時50分頃、群馬県館林市を流れる多々良川で、栃木県足利市に住んでいた化粧品販売員の萩原孝(はぎわら たか)さん(当時84歳)の遺体が発見された。
発見したのは近所に住む男性で、萩原さんの遺体を見つけ、警察に通報した。
この場所は、萩原さんの自宅から約5km離れていた。
発見時、萩原さんの顔には布の袋が被せられ、首にはマフラーのようなものが巻かれていた。
所持品はなく、靴も履いていなかった。
司法解剖の結果、目立った外傷はなく、首を強く絞められた形跡もなかった。
また、肺から水が検出されなかった事から、水死の可能性も低いと見られ、死因は特定されていない。
萩原さんは、3月25日から行方不明になっており、この日の予定について周囲に、「宇都宮に出掛ける」と話していたという。
萩原さんの10年来の友人は、「宇都宮方面に行きますけど、お土産は何がいいですか?」と聞かれたが、「宇都宮に出掛ける」と聞いて違和感を覚えたという。
萩原さんは以前、この友人に「最近、方向音痴になってきたから、あまり遠くには行かないんですよ。」と話していた事から、友人は「恐らく1人ではなく、誰か友達と一緒に行くのだろう。」と思ったという。
萩原さんは、3月25日昼頃、自ら車を運転し外出したが、その後、行方不明になっていた。
次の日になっても帰ってこない萩原さんを心配した家族は、27日に足利警察署に相談し、同署は情報提供を呼び掛けていた。
遺体発見時、萩原さんの車はどこにも見当たらず、車が発見されたのは、萩原さんの自宅から約1kmのところにある栃木県足利市の足利市民プラザの駐車場だった。
警察によると、車は失踪当日から移動していないと見られている。
「事件が急展開」
失踪から8日後の4月2日、群馬県千代田町に止めてあった車の中から、萩原さんの血のついたジャンパーが発見された。
この場所は、萩原さんの自宅から南に約11kmのところにある。
萩原さんは失踪当時、長袖のシャツにジャンパーを羽織り、手提げバッグと黒い長財布を持ち、指には動物が彫られた金の指輪をはめていた。
この車の持ち主は、群馬県板倉町在住の40代の女性だった。
実は、この女性も萩原さんと同じ3月25日から行方不明になっていた。
萩原さんとこの女性の自宅は約20km離れており、仕事上の繋がりや電話の通話記録、メールのやり取りなど、明確な接点は一つもなかった。
警察によると、この40代の女性は職場の上司に、3月25日は「休みます」と伝えていたという。
警察は、この40代の女性が何らかの事情を知っていると見て行方を捜していたが、2015年6月26日、千葉県我孫子市の利根川で遺体で発見された。
女性は発見時、ジャンパーにジーンズ、スニーカーを履き、腕には腕時計をつけていた。
致命的な外傷はなく、司法解剖の結果、死因は水死である事が判明し、死後2ヶ月以上が経っていた。
「容疑者の女を逮捕」
2018年(平成30年)1月24日、警察は、足利市の派遣社員で元化粧品販売員の落合和子(当時42歳)容疑者を、萩原さんの死体遺棄容疑で逮捕した。
死体遺棄罪の公訴時効は3年のため、時効まであと2ヶ月というギリギリのタイミングだった。
警察は、落合容疑者が萩原さんが失踪した当日に、萩原さんと電話で話した後、足利市内で直接会っていた事を掴んでいた。
そして、事情聴取の際、萩原さんの死体を遺棄した経緯を供述した事から逮捕に至った。
落合容疑者は、萩原さんとは顔見知りで、利根川で遺体で発見された40代女性とは親しい間柄だった。
落合容疑者は、事件直前に萩原さんと40代女性の3人で出掛けたと話しており、萩原さんの遺体が見つかった近くの橋から、女性が人形のようなものを落としていたとも供述している。
落合容疑者は事件当時、多額の借金を抱え、仕事上の900万円ほどの未払金や公共料金の支払いを迫られていた。
落合容疑者は事件当日、40代女性と行動を共にし、枕カバーやスカーフを購入していた上、40代女性の車に乗り込む様子が防犯カメラに映っていた。
そして、2018年12月25日には、事件当日に群馬県内かその周辺で萩原さんの首を絞めて殺害し、現金約50万円を奪った強盗殺人容疑で再逮捕された。
「裁判」
2018年12月5日、落合和子被告の裁判員裁判の初公判が、前橋地裁で行われた。
落合被告は、強盗殺人罪について「私とは関係ありません」と容疑を否認し、死体遺棄罪については「手伝った事はある」と述べ、事件当日に一緒に行動していた別の女性に従属的に関与したと主張した。
検察側は冒頭陳述で、「落合被告は金遣いが荒く、親族や消費者金融から借金をし、働いていた化粧品の委託販売店にも売上金の支払いを迫られていた。」と説明した。
また、仕事仲間だった萩原さんを殺害し、現金を奪う動機があった事を指摘し、40代の女性会社員と共に萩原さんと会った後、殺害して金を奪い、遺体を遺棄したとも主張した。
一方、弁護側は、萩原さんを殺害したのは40代の女性だと主張した。
女性は落合被告の姉の同級生で、落合被告に「超人的な存在」が乗り移ると信じて「ピーチ」や「殿下」といった架空の名前で信仰していたと説明し、萩原さんを殺害したのは金銭関係の相談をした落合被告と女性に萩原さんが説教したのが原因で、落合被告は死体遺棄を頼まれて手伝っただけだとした。
また、落合被告は姉から「お供え」として現金を渡され、「人を殺して奪うほどには困窮していなかった。」とも述べた。
証人尋問では、落合被告の聴取をしていた警察官が出廷し、事件発生から逮捕まで約3年を要した捜査について「被告の財務捜査が決め手となった。」と述べ、「姉と女性は(落合被告に)マインドコントロールされていた。」と話した。
・判決
前橋地裁は1審で無期懲役を言い渡し、弁護側はこれを不服とし控訴していた。
しかし、東京高裁は2019年10月10日、「借金の返済に充てる現金を必要としており、金品を奪う目的で殺害する動機があった。」と判断し、無期懲役とした1審前橋地裁の裁判員裁判判決を支持し、弁護側の控訴を棄却し、2審でも無期懲役となった。
「被害に遭った萩原孝さん」

・名前:萩原孝(はぎわら たか)さん
・当時の年齢:84歳
・住所:栃木県足利市
・職業:化粧品販売員
萩原さんは、化粧品の契約が決まると営業所で化粧品を受け取り、顧客へ届ける仕事をしていた。
約30年の訪問販売のキャリアを持ち、周りの人からも愛されていた。