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【富山市夫婦殺人放火事件】
富山市夫婦殺人放火事件は、2010年(平成22年)に富山県富山市で発生した殺人放火事件である。
2010年4月20日午後0時20分頃、富山県富山市大泉にある3階建てビルの2階部分から出火し、焼け跡の寝室から男性(当時79歳)と女性(当時74歳)の夫婦の遺体が発見された。
夫婦は数年前にこのビルを買い取って2人で暮らしており、夫は不動産業などの複数の事業をしていたという。
富山県警の調べで、妻の遺体には首を絞められた跡があり、夫も首を絞められた事による窒息死である事が分かった。
夫婦は首を絞められた後に、ビルに放火されたと見られている。
その後、同年6月に週刊文春に、CD-Rと手書きの現場の見取り図が送付されていた事が分かり、富山県警は週刊文春に対し任意で提出を求めたが、週刊文春は取材源の秘匿を理由に拒否した。
しかし、富山県警は2012年8月1日に、差し押さえ令状によりCD-Rと現場の見取り図を押収した。
押収したCD-Rには、動機や困窮した現状などが記されており、「格差社会のゆがみにはまり、憎悪を増幅させてしまったいきさつについて手記として書き記したい。私の生活は困窮している。私のやり遂げなければならないことにもお金がかかる。」という金銭を要求するものだった。
また、現場の見取り図に関しては、犯人か警察、消防の一部の者しか知らない情報だった。
CD-Rを解析する過程で、文書の作成者として被害者の知人だった富山県の警察官(当時54歳)の名前が、ローマ字で残されていた事が判明し、富山県警はその警察官に疑いを持った。
そして、この警察官は同年10月31日に、捜査情報を漏洩したとして地方公務員法違反(守秘義務違反)で逮捕された。
同年11月21日には、別の捜査情報の漏洩で、地方公務員法違反で再逮捕された。
更に、同年12月22日に、放火殺人事件についての殺人及び現住建造物等放火、死体損壊の容疑で逮捕された。
この警察官は当初、放火殺人事件の容疑を認め、「被害者と話していたら電話がかかってきた。」と供述しており、出火する数十分前に被害者宅に電話がかかった事実があった事から秘密の暴露と判断されていた。
また、この警察官は2008年7月13日に、富山市に住む親族宅に侵入して財布を盗み、同月16日には別の親族宅の金庫を壊し、数十万円相当の金塊と現金十数万円を盗んだという余罪が浮上した。
事件現場には、この警察官の懐中電灯が残されていたが、「車上狙いに遭って盗まれた」と嘘の届け出をしていた。
親族間の窃盗は、被害者側の告訴がなければ起訴できないが、親族が告訴しなかったため、窃盗罪については不起訴処分となった。
「放火殺人事件も不起訴に」
被疑者は当初、容疑を認めていたが、起訴の可否を判断する過程で次の事がネックとなり、2013年1月11日に精神鑑定が行われ、同年5月21日に処分保留となり、同年7月24日に富山地方検察庁は「複数の疑問点がある」とし、嫌疑不十分で不起訴処分とした。
・週刊文春に送ったCD-Rの作成時期を6月上旬と供述していたが、CD-Rに残っていた記録は5月12日になっていた。
また、5月12日は、富山県高岡警察署の留置管理課で勤務していてアリバイもあった。
・CD-Rの文書作成ソフトのバージョンが、被疑者が使用していたノートパソコンのバージョンと異なっていた。
また、被疑者のノートパソコンにCD-Rの文書を作成した痕跡がなかった。
・被疑者は「夫婦の首を紐で絞めた」と供述していたが、一部の法医学者が手で絞めた扼殺の可能性を指摘していた。
・事件前後に被疑者が通ったという道路の防犯カメラに、被疑者が映っていなかった。
・被疑者は凶器や盗んだ財布を川に捨てたと供述していたが、現場を捜索しても凶器や財布は見つからなかった。
・被疑者は動機について、「30年以上前からの付き合いの積み重ねでやった。親の恨みが子供に引き継がれることもある。」と供述していたが、これに関して裏付けが取れなかった。
・処分が保留となって以降、「自分がやったのか分からない」と供述が曖昧だった。
この警察官は、放火殺人事件の容疑については不起訴となったが、別件の知人に捜査情報を漏らした地方公務員法違反で2012年12月7日に起訴され、2013年3月25日に懲戒免職となった。
そして、同年7月25日に、富山地方裁判所が懲役1年・執行猶予4年の判決を言い渡し、同日に富山拘置所から釈放された。
「被害者遺族の想い」
被害者遺族は警察に対し、事件発生直後の捜査段階で早期に被疑者のアリバイを調べられなかった事や、週刊文春に送付されたCD-Rを早期に令状で押収しなかった事に不信感を持っている。
また、被疑者の不起訴処分を不当とし、2013年8月2日に富山検察審査会に審査を申し立てたが、富山検察審査会は2014年7月17日に不起訴相当を議決した。
富山検察審査会は議決書で、「事件の約3時間後に元富山県警察官が21万円を現金自動預払機に入金していた」という証拠が初めて明らかになったが、被害者の財布に入っていた金額が不明なため、事件との関連を示すことはできないとし、「犯人性を裏付ける証拠とはならない」と結論付け、「何らかの形で犯行に関与したのではないかという疑問は最後まで残る」と疑念も示した上で、「直接証拠は見当たらず、自白を裏付ける証拠も見当たらない」とした。
「捜査状況」
富山県警は現在も捜査を続けているが、犯人に結び付くような有力な情報は得られていない。
この事件は2013年10月17日に、警察庁捜査特別報奨金事件に指定され、被害者遺族の謝礼金を合わせ、犯人逮捕に繋がる有力な情報には、上限額1,000万円の懸賞金が支払われるようになっている。
<連絡先>
富山県警察本部刑事部捜査第一課
076-441-2211(代表)
「現場の地図」

「現場の状況」
「週刊文春に送られた犯行声明文」

「犯人を名乗る者が週刊文春に送った現場の見取り図」

「現場から持ち去られた可能性がある財布」

「事件発覚日に現場を撮影した写真」

「富山県警が作成したチラシ」